「ている」と「てある」
何年か前の日本語教育能力検定試験に、a「ドアがあいている」とb「ドアがあけてある」の違いを初級学習者に分かるように説明しなさい、という問題が出たことがあります。もし絵で答えていいなら、aはドアが完全に閉まらず風が吹き込んでいる状態、bはドアが閉まらないように椅子などで押さえてある状態を描けばいいかもしれません。それにしても、自動詞+テイル、他動詞+テアルの違いは微妙で、「電気がついている」と「電気がつけてある」の違いとなると、絵で表すのはかなり難しいでしょう。両者の違いは、見た目には現れない何かに関係するようです。
そこで、片方しか言えない場合をみてみましょう。「一万円札が破れているから、替えてもらおう」の「破れている」は「破ってある」にはなりません。逆に、「子供でも開けられるようにキャップがゆるめてある」は「ゆるんでいる」とは言えません。テイルもテアルも状態を表すことに変りはないのですが、テアルが使えるのは、誰かが作用を加えたからそのような状態になっている、と作用面に着目した場合であり、結果面に着目するテイル(誰かが作用を加えた場合も、自然にそうなった場合も可)と比べてみると、用いられる場面が明らかに異なります。
分かりやすい例で考えてみましょう。a「ビールが冷えている」とb「ビールが冷やしてある」は、はっきり意味が違います。aはビールが低い温度になっているという、結果面に着目した表現、bはビールを前もって冷蔵庫に入れるなどしたという、作用面に着目した表現です。したがって「冷やしてあるけど、まだ冷えていない」という文も可能なわけです。作用がすぐ結果に結びつかない「冷える/冷やす」「乾く/乾かす」「伝わる/伝える」などの動詞の対の場合に、テイル・テアルを付けたとき、はっきりとした意味の違いが出てくるのです。ちなみに、「あけてあるけど、まだあいていない」と言えないのは、「あける」という作用が即「あく」という結果に結びつくからです。
初級学習者には作用面、結果面といった用語で説明することができませんが、テイル・テアルの使われるふさわしい場面を考え、できるだけ分かりやすい例を多く使って指導したいものです。