1.ファイリングとファイリングシステム
「ファイリング」とは、普通「必要なときにすぐ利用できるように、文書を整理しておくこと。」と定義されています。事務所などにおける「保管文書整理法」です。
これに対し、「ファイリングシステム」とは、文書の整理だけでなく、「文書をだれがどのように管理するのか。使用頻度が低くなった文書をどこに移して、どのように保存するのか、それを何年後に捨てるのか。」までをも含む、一連のシステムのことです。つまり「受け付けと分類→事務所内での保管や貸し出し→事務所外への移転と保存→廃棄までを標準化された方法によって行うための、一種の制度」ともいえます。(日本でこの意味に用いられる「ファイリングシステム」という言葉は、一種の和製英語.この分野の先進国アメリカでは“Records management”と呼ばれています。
具体的な内容に入る前に、ファイリングシステム導入の必要性と、導入メリットを考えてみましょう。
なお、以下で「文書」というのは、いわゆる「ビジネス文書」のみを指しています。資料類の整理法については他所に譲ります。
2.システム導入によるメリット
(1)不要文書の廃棄や、使用頻度が低い文書の他所への移転によって、高価なオフィススペースの有効利用環境改善が可能になる。また、保管文書が減り、必要文書にアクセスしやすくなる。
(2)分類整理管理保管の方法を標準化することによって、だれにでも容易に、しかも短時間で必要な文書が見つけられるようになる。事務能率の向上、人件費の節約につながる。
(3)文書の私物化を許さないので、重複保管がない。その上、文書の廃棄が容易になる。(前任者の残した文書類が、捨てるに捨てられず、不要なのに置いてあることがよくある。「ひとのもの」は捨てづらいからである。)
(4)文書の共有によって、個人が持つ貴重な知識情報が、会社の共有財産となる。これがファイリングシステムの究極の目的。
「システム導入の実際」
1.システム導入の手順
システム導入は以下の手順で行われます。(各項目については後述)
(1)文書管理単位の決定
(2)不要文書の廃棄
(3)文書を「課の共有物」として整理
(4)ファイルをばらして「フォルダー」に入れ替える
(5)使いやすいまとめ方、並べ方の検討
(6)文書の貸し出し制度、「仕掛かり文書」の管理、置き換え移し変えの方法、廃棄基準の設定など、「維持管理」の方法の整備
(7)見直しと改善
2.文書管理単位の決定
「文書をどこが持っているか」ということ。現在は、「個人が持っている」状況で、個人にとっては便利でも、管理が行き届かないという欠点があります。この正反対がセントラルファイリングといわれるもので、全社の文書を1カ所に集めて集中管理する方法。この場合、管理は完璧になりますが、そのつどセンターまで文書を取りに出向かなければならず、使う側にとっては大変不便なものになります。
この中間で、「管理もある程度十分できて、しかも使い勝手がよい」という単位は、日本の会社組織でいえば“課”だとされています。
「組織をいくつかの「ファイル保管単位」に分け(通常は課)、各所に責任者をおいて、よく使う文書の保管と管理を任せます。全体の統制は文書課で行う」という方式を「分散ファイル集中管理」と呼んでいます。
現在は、この方式をとるところが多いようです。
3.不要文書の廃棄
保管単位が決まったら(ここでは課として話をすすめる)、まず最初に課の全員が取り組まなければいけないのが、不要文書を捨てること。アメリカでの調査結果や日本でのシステム導入の経験から、次のようなことがわかっています。
すぐ捨ててかまわないもの 50%
捨てられないが事務所に置いておく必要はないもの 30%
事務所に置く必要があるもの 20%
まず各人が自分のファイルをチェックして不要文書を捨てることから始めます。「半分は捨てる」を目標に。以下が不要文書の目安です。
(注)商法などで法的に保存年限が決められているものは、それに従うこと。捨てる前に要チェック。
(1)1年以上前のもので、自分の課の本務ではないもの。その仕事を主管している課が持っているはず。
(2)自課の本務のものでも、1年以上見たことがないものは捨ててもまず大丈夫。(米国の調査によると、文書利用100回のうち、1年以内の文書が99回、半年以内の文書が90回。つまり、1年以上前の文書が必要とされる確率は、たったの1%)
(3)清書済みの原稿、訂正済みの変更通知。
(4)参考程度に送られてきた報告書通知文書。
(5)儀礼的文書類(年賀状招待状案内状など。住所が必要ならアドレス帳に)
(6)古い新聞雑誌(必要な記事は切り抜きなどにする)
(7)古いカタログや更新済みの統計資料価格表など。(下手にとっておくと間違いのもと)
(8)用済みのファクステレックス文書。
(9)社内用の請求伝票や整理表。共有の文書も同様に「大掃除」をします。
4.文書を「課の共通物」として整理
あとに残った全てのファイルを1カ所に持ち寄る。課員全員が集まり、仕分けを始めます。
(1)一昨年以上の前のものはひとまとめにする。(チェックの後、事務所外に移す。文書課、倉庫、地下室、トランクルームなど、事情に応じて。)
(2)帳簿図書は別にする。(両開き保管庫や書棚に)
(3)伝票カード類は別にする。(専用の整理容器を使う)
(4)議員に対してもマル秘扱いの文書は、課長のキャビネットなどに入れておく。(課長が自分で整理)
ここまでして残ったのは、キャビネットに整理できます。今年度昨年度の文書ファイル。これらを以下のようにまとめます。
(1)各係の仕事特有のもの(係専用ファイル。係ごとにまとめる)
(2)一般的なもの(共用ファイル。同じファイルが数冊出てきた場合、最も完全なものを1部残し、あとは捨てる)
(3)資料扱いしたほうがよいもの。(統計表係数表など)
分厚い1件別ファイルについては、やはり1件別のほうが使いやすいと判断されれば、そのまま保管庫整理に回す。
5.フォルダーによるファイリング
「4.課全体での整理」で整理して残ったファイルをフォルダーに移します。手順は次のとおり。
(1)ファイルの綴じ具やひもをはずしてバラす。
(2)本年度と昨年度の文書に分け、さらに不要文書をチェックして捨てる。昨年度の分は、いったん別にしておく。
(3)本年度分を、題名を見れば中身がすぐわかる程度にまで細分化し、フォルダーに挟む。
(4)見出しに題名を書く。(まだ暫定的。後に検討して確定)
フォルダー“folder”(holderではない)とは、綴じ具やマチのない薄い紙ばさみのようなもの。バインダーによるファイルに慣れている人には「挟むだけ」というのは抵抗があるでしょう。しかし、以下のような理由から、ファイリングシステムにおいては、「フォルダーによるファイリング」が推奨されています。
(1)バインダーのように綴じなくてもよいので、すぐファイルできる。不要になればすぐ捨てられる。
(2)一定のスペースに対して、文書収容力が大きい。(バインダーは、中身がなくてもスペースをとってしまう。)
(3)文書を小グループに細分化できるので、以下の利点がある。
題名を見ればすぐ中身がわかる。(バインダーの場合、いろいろなものを綴じ込みがちで、題名が抽象的になりやすく、検索に時間がかかる。)
必要なものだけを取り出すことが容易。
フォルダーごとに保存年限を決められるので、移し替え置き換え(後に説明する)保存廃棄がフォルダー単位で管理できる。つまり「捨てやすい」。
(注)それでもバインダーにしたければ、バインダーファイリングを専門に研究し、欠点を補う方法を提供している会社(㈱キングダム)もあるので、参考にするとよい。
フォルダーによるファイリングには、「パーティカルファイリング法」と「ホリゾンタルファイリング法」があります。要は「向き」の違い。見出しの付け方や保存キャビネットが異なるだけで、原理は同じです。詳細は専門書をご覧ください。
6.使いやすいまとめ方並べ方の検討
いよいよ、フォルダーをまとめる段階に入ります。「使いやすくまとめる」というのが至上命題.いくら整然としていても、使いにくければ何の価値もありません。現場にいて業務を知り尽くしている人たちが、使いやすく作り上げる「ツミアゲ方式」が推奨されているのはこのためです。(この逆が「ワリツケ方式」。詳細は避けますが、うまくいかないことが多いとのこと。)以下に、まとめ方の基本を紹介します。
(1)相手先別
往復文書ファイリングの代表的な整理方式。「だれがだれと」でまとめるやり方で、発信者受信者がはっきりしている場合に最適.「アイウエオ順」「地区別分類」「職制による分類」「背番号制」等の並べ方がある。
(2)主題別
なにか具体的なテーマがあって文書を探すときに便利な分類。「なにが」でまとめるやり方。例えば、「人事課」というファイルを作ったが、分厚くなってしまって使いづらかったとき、「採用」「給与」「教育」に分けるというのも「主題別」の分類。
(3)標題別
「注文書」「見積書」「報告書」のように帳票化した文書。
(4)一件別
1つの案件(プロジェクト、工事、訴訟など)の始めから終わりまでを1つのファイルにまとめる方法。
(5)形式別
以上の4つのまとめ方のほかに、「稟議書」「慶弔状」のように、形式でまとめるとよい場合もある。
いずれにしても、よいファイリングをするには、以下のことが大切。
(1)一緒に使うことが多い文書は同じフォルダーに。
(2)一緒に使うことが多いフォルダーはなるべく近くに。
(3)捜しやすくするために、フォルダーの中身は少なく。
(4)見出し類(「ガイド」「山」等)の有効利用。
しかし、例えば(1)と(3)は相反関係.結論としては、「分厚くするより、薄くするのを優先」がプロからのアドバイスです。
さて、課員の知恵をしぼって、分類の仕方や並べ方が決まったら、キャビネットの「本年度用」の段に収納.「配列表」を作り、一番前に置いて並べ方の決まりとします。昨年度の分も同様に処理し、キャビネットの「昨年度用」の段に収納します。どうしても不便な点があれば柔軟に改善していきます。
来年度になれば、「本年度用」の段に入っているフォルダーは、不要文書を廃棄したうえで、「昨年度用」の段に移されます。これを「移し替え」といいます。
押し出された一昨年度の文書は、不要文書廃棄の手順を経て、保存の必要があるもののみ、事務所外に「置き替え(“引き継ぎ”と呼ぶ会社もある)」し、「保存」されます。年に一度、日を決めて、文書課が音頭をとり、「移し替え置き替え」をするとよいでしょう。
これで、個人が私有しているファイルはなくなり、課が管理するものとなりました。古い、不要の文書も事務所から一掃されました。しかし、「これで出来上がり」とはいきません。事務所外への「置き替え保存」の方法や文書廃棄の基準は、どうするのか。文書の貸し出しはどう管理するのか。「仕掛かり文書」をどう管理するのか、等々。システムを完成させ、維持管理していくための重要な仕事が残っています。
「システムの完成と維持管理」
1.保存と廃棄
いくら事務所が快適になっても、「押し出された文書が倉庫に山積み」ではシステムが完成されたとは言えません。捨てる技術が必要です。
保存年限は、
(1)歴史的な価値の大きさ
(2)実務にとっての必要性
(3)再生の困難度
(4)スペース
(5)法的な制約、等によって決まるとされていますが、
(5)以外は具体的な基準にはなりません。
これが「捨てられない」原因となっています。結論からいえば、文書の種類によって保存年限を「制度として」決めてしまうこと。難しいことですが、いったん決まれば、だれでも悩まずに捨てられるようになります。「いつか必要になるかもしれない。」とためこんでも、保存管理が不十分で見つからないとしたら、ないのも同じ。割り切りも必要です。
保存年限の決定は重要な意味を持つので、文書の種類ごとに慎重に検討を。保存年限決定の目安については、専門書を参照してください。
また、保存年限はフォルダーごとにあらかじめ決めておきます。そして事務所外への「置き替え」のときに、フォルダーごとに保存年限別(3年、5年10年、永久など)の箱に入れて保存します。こうすると、「置き替え」の作業が簡単になり、そのうえ期限が来たときにだれでも箱ごと捨てられます。
2.貸出制度の徹底と「仕掛かり文書」の管理
課の外への貸出には、貸出カードの使用を制度化します。ファイリング係がときどきチェックし、期限切れのものは督促します。
「仕掛かり文書」とは、本当に書きかけの文書のこと。これを各自の机のひきだしに入れるのを許すと、私物化が始まります。担当者の名前が入った「やりかけファイル」に入れ、終業時に一定の場所に保管するようにします。なお「使っている文書」は当然キャビネットに返してから帰ります。
3.管理維持の重要性
システムを維持していくには、専任のファイリング係を養成していくのが望ましい。忙しい業務の片手間に「暇なときにチェックしよう」というのではすぐ元に戻ってしまう可能性が強い。また、適切な制度化標準化マニュアル化もシステム維持のポイントです。