東海道新幹線の「のぞみ」は東京と大阪の間を二時間半で突っ走る。「ひかり」より三十分近く短縮ということになった。午前六時東京発の下り列車は「明のビジネス超特急」と呼ばれているそうだ。
同乗記を読み①面白いような悲しいような心地になった。乗客の八割は背広姿にかばんを提げた会社員風の男たちだという。五時ごろには起きたはずだ。発車とともに弁当を買い、そそくさと朝食。富士山が大きく見えるころには大半が就寝。「窓の外を見ても速すぎる。食うものを食って寝るだけ」だそうな。
乗務員も忙しい時間との闘いだ。車内販売の女性は外の風景をみて、それを時間の流れの目安西ながら仕事をした。今度はそれで目算が狂う。そこで景色は見ないことにした。速さの感覚に慣れた「ひかり」に乗務すると、②ほっとするそうだ。そうだろう。
③そうではあろうが、人々は、ふしぎなもので「のぞみ」にもまだ、いつのまにかなれるに違いない。どこまで忙しさに慣れてゆけば、人間は気がすむのだろうか。便利なものができ、④それに順応でくるのは結構だが、人間が道具に使われることにはならないか。
⑤浅見祐三賛から聞いた話を思い出す。浅見さんは東京の牧師さんだ。長年インドネシアはスマトラ島のランプン州に住んで伝道をしていた。ある時急いで三ヶ所に書類を届けなければならぬ用事ができた。五十がらみのスプリアデさんが仕事を買って出た。
自転車で三ヶ所、二十キロほどを回る。帰って来た彼が、なぜか静かで、ぼんやりしている。具合でも悪いのかと、わけをきくと、こう言ったそうだ。「速く回りすぎました。身は帰って来たんですが、魂がまだ帰ってきていないんで。」
私たちの戦後をも見ずに全力疾走、まだ走っている。
速すぎて、魂を置き忘れたりしなければ良いが。
問1「面白いような悲しいような心地になった」とあるが、なぜそのような気持ちになったのか。
1「のぞみ」が二時間半で東京と新大阪の間を走るから。
2乗客が景色も見ずに、弁当をたべたらすぐ寝てしまうから。
3乗務員が時間と闘って、車内販売をしているから。
4「のぞみ」の速度にいつか人が慣れてしまうだろうから。
問2②「ほっとするそうだ」とあるが、それはなぜか。
1外の景色で時間の目算立つから。
2車内販売が暇になるから。
3ゆっくり外の景色が見られるから。
4乗客の大半が眠ってしまうから。
問3③「そう」が指す内容として最も適当なものはどれか。
1食べるものを食べて寝るだけということ。
2外の景色が見られないということ。
3「のぞみ」にはほとんど会社員しか乗らないということ。
4速さにまだ慣れないということ。
問4④「それ」が指す内容して最も適当なものはどれか。
1時間
2忙しさ
3人間
4外の景色
問5⑤「浅見祐三さんから聞いた話」とあるが、この話に対する筆者の気持ちはどれか。
1三ヶ所、二十キロを回るだけで、疲れるようではいけない。
2自動車で回らなければならないのは、不便で仕方がない。
3日本は交通機関が発達していて便利だ。
4日本はすべてのものが速すぎる。
問6筆者はどのような気持ちからこの文章を書いたと思うか。
1便利さの代償に人間らしさを失わないようにすることが大切だ。
2忙しさに追われて病気にならないように注意が必要だ。
3さらに便利な社会をつくるために努力を続けなければならない。
4道具によって仕事の時間が短縮されても、時間の大切さは変わらない。
二 次の文の論点および問題となる事実について答えよ。
日本は1960年代の高度成長を経て、国民総生産はアメリカにつぎ自由世界第二位となり、日本経済の動向が他国の経済に大きな影響を及ぼす「経済大国」となった。1970年以降も、国内的にはさまざまな困難を抱えながらも、世界全体からみれば、インフレも沈静化しつつあるうえに失業率も相対的に低く、非産油国中数少ない大幅な黒字国となっているという点で厳しい国際経済情勢のもとで、日本経済は比較的恵まれた状態にあるといえる。それにもかかわらず国際経済社会の中でその役割を十分に果たしていないというのが、1970年代の先進国による対日批判の背景である。
経済大国といっても資源の大半を海外に依存している事情を考えると、わが国が発展途上国などへの経済/技術援助を積極的に果たすことは、国際通貨問題の根本的原因となっている国際収支の不均衡の是正に貢献し、同時にエネルギー資源を中心とする資源の安定供給体制を確立することに役立つであろう。このことが達成される時、今日の不安定な国際経済は少なくとも安定化への第一歩を踏み出すことになろう。そのためには、例えば大幅な黒字を減らすために輸入制限を逐次徹廃するなど、対外的な要請を優先してそれによって生じる国内の摩擦を最小限にとどめるための措置を講ずるといったことがもとめられよう。国際経済の現状は不確定であり、好ましい状態にあるとはいえない。現状を改善していくためには、日本を含む先進国間の協力は不可決である。こうした発想の転換こそが、日本経済の国際化ということの真の意味であろう。
(1)この文が、論じている問題は何か。
1国際貿易摩擦の解消
2日本経済の成功の原因
3先進国間の経済協力の必要性
4国際経済における日本の役割
(2)次の中から、現在の状況に当てはまらないものを選べ。
1日本は輸入に対する制限をもうけてる。
2世界経済はインフレや高い失業率などの問題を抱えてる。
3国際経済はまだ不安定ではあるが、安定化へ向かい始めている。
4国際収支の不均衡の是正が、国際経済における課題の一つとなっている。
三 次の文の論点および問題となる事実について答えよ。
このような眼は日本人にはないのである。僕は一度もこのような眼を日本人に見たことはなかった。その後も特に意識して注意したが、一度も出会ったことがない。つまり、このような憎悪が、日本人にはないのである。「三国志」における憎悪「チャタレイ夫人の恋人」における憎悪、血に飢え入ッ裂きにしてもなおあき足りぬという憎しみは日本人にはほとんどない。昨日の敵は今日の友という甘さが、むしろ日本人に共有の感情だ。およそ仇討ちにふさわしくない自分たちであることを、おそらく多くの日本人が痛感しているに相違いない。長年月にわたって徹底的に憎み通すことすら不可能にちかくせいぜい「食いつきそうな」眼つきぐらが限界なのである。
伝統とか、国民性とよばれるものにも、時として、このような欺瞞が隠されている。およそ自分の性情にうらはらな習慣や伝統を、あたかも生来の希願のように背負わなければならないのである。だから、昔日本に行われていたことが、昔行われていたために、日本本来のものだということは成り立たない。外国において行われ、日本には行われていなかった習慣が実は日本人にふさわしいこともありえるのだ模倣ではなく、発見だ。ゲーテがジェクスピアの作品に暗示を受けて自分の傑作をかきあげたように、個性を尊重する芸術においてすら、模倣から発見への過程は最もしばしば行われる。インスピレーションは、多く模倣の精神から出発して、発見によって結実する。
キモノとは何ぞや。洋服との交流が千年ばかり遅かっただけだ。そうして、限られた手法以外に、新たな発見を暗示する別の手法が与えられなかっただけである。日本人の貧弱な体躯が特にキモノを生み出したのではない。日本人にはキモノのみが美しいわけでもない。外国の恰幅のよい男たちの和服姿が、我々よりも立派に見えるにきまっている。
(1)1~4はこの文章の直前にあったと考えられる内容は1~4のうちどれか、最も適切なものを一つ選べ。
1昔の日本人が長い年月の間憎しみを持ちつづけて仇討ちをした話
2キモノは日本の伝統であるので、現代の日本人が着物を着ないのは伝統の軽視であるという意見
3外国人が激しい憎悪を込めた眼月をしたのを見た経験
4外国人の男たちの立派な姿と個性的な眼つき
(2)筆者の主張を1~4の中から一つ選べ。
1昔からその国で行われていたことがその国の人々に最も適している。
2昔からその国で行われていたことがその国の人々に最も適しているとは限らない。
3昔から行われていたことや、その国で行われていることは尊重すべきである。
4昔から行われていたことや、その国で行われていることは模倣ではなく発見である。
解答
一 問1-2 問2-1 問3-4 問4-2
問5-4 問6-1
二 問1-4 問2-3
三 問1-3 問2-2