……いったんシャッターを押してしまうと、目の前の佳景をしっかりと観賞し、記憶に留め置くという作用がどうしても甘くなる。……。カメラがないとなると、観賞法そのものもおのずと厳しくなる。余計なことを考えずに済むから、心ゆくまで賞味することができる。
しかも、これから先に述べることは自分でもはっきりと断定できない微妙な心の作用なのだが、カメラがなければまのあたりに見たことをハーフ•メードの形で文章化しておくという仕事も、無意識のうちでやってしまうようだ。……。
こんな作用 は一般の人々にはあまり必要なことではあるまいか、旅先で写真を撮ることにばかり夢中になっている人を見ると、「あんなことで風物をよく観賞することができるのだろうか」と、不思議に思わないでもない。
(阿刀田高「左巻きの時計」)
問:こんな作用とはどのようなことか。
1. 風景をある程度文章にして記憶すること。
2. 風景を深く観賞し、記憶にとめること
3. 風景をテーマに小説やエッセイを書くこと
4. 風景の写真を撮ることに疑問を感じること
正解:1